オンリ新刊サンプル
月華遊星3の新刊サンプルです。

内部太陽系みんなの、とても小さい頃のお話。

サンプルは亜美ちゃんですが、
本にはうさぎちゃん、レイちゃん、美奈子ちゃん、まこちゃん、それぞれみんなのお話があります。

※中学生の彼女達は出ません。すべて妄想の産物なのをご容赦下さい。
  





風にそよぐ梢。カナリヤ色の木洩れ日。

不規則なきらめきの中ゆれる乳母車は、まるでたゆたう小舟のようだった。

心地いい午睡にひたる前の、猫のようなあくび。キャンパスに描くのと同じ要領で。
水のように柔らかな髪を指がかきあげる。
流れにさからうことのないようととのえて、そっと離れていく。
珊瑚色のブランケットをつまみあげ、肩にかける。

瑠璃色の大きな瞳。
そこにうつり込んだ小さな私達は、まるで海の中にいるようだった。

それならと、頬を白い砂浜にたとえてみて、すぐにそれはまちがいだと知る。

指を押しかえす肌の弾力。
なのにどこまでも柔らかな感触。
その温度は日向。
肩に置かれた温度と、とてもよく似ている。

あ、とちいさな声と一緒にのばされたもみじのような手を、大きなてのひらが包む。
するとつぼみのようなくちびるが花開いて、きゃあ、と弾む声が咲く。
それにつられて、どちらともなく顔を綻ばせた。
こめかみをなだらかな腕に預けて、手を重ねあわせる。

木々のさざ波に転がる鈴の声。
あわせた二つの手の中で、小鳥がはばたくように動く。

ひとつ小鳥を撫ぜて、そうして離れた大きな手が、ほら、と雲のように指を広げる。
それから空へとのびて、やってごらんと浮遊する。ゆっくりと羽をひろげた手が、はためいて。
その身に風を受け、太陽の熱を受けながら、かざし。

ながれる血汐に目を細めて。
それでも、自らの意思で。

たとえばこの手が。

誰かの手を、握り返すことができるほどになった時。

冬の日差しさえ眩しそうにしたその目で。
春のかすかな気配すらとらえたその耳で。
夏の雲たった一つにおどらせたその心で。

一体、何を追うのだろう。

どこまでものびていく飛行機雲。
抜けるような青空の高さ。
それを支えるようにそびえる山あいの、新緑から赤へ変わる不可思議。
空に浮かぶ白磁の月の、杳々たる園が寂れたように。
遥かから、紅葉が散る。

まもなく眠りへと落ちていくもみじを、出来るだけゆるやかに受けとめた。
お互いの吐息がふれあうほど距離を縮めて、やわらかなひたいと、額をあわせて。
かみと髪とをこすり合わせて、声をあげて笑うあなたに、はなのあたまでキスをする。

一と。百と。千と。億と。兆の確立を超えて。

私達のもとへ、うまれてきてくれたあなた。

亜美。

二つの音。息を吸って、言葉にする。
たったそれだけのことなのに。
世界がにじんでしまうなんて、知らなかった。
あなたが私達に教えてくれたように。
あなたもきっと、教えてくれる誰かに出会うでしょう。
その時。
あなたがその、誰かの手を、握り返すことが出来るようになるまで。

すこやかに。おやすみなさい。
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by nominingen | 2013-05-14 21:00 | お知らせ


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