ワールドエンド

ある少女の「普通の世界」の終わり。
そしてそれはある「世界」の始まり。

なんつって。









深い睡眠からの一度目の覚醒は、すっきりとしたものだった。頭の奥に薄荷の風がすう、と吹いたような。
寝起きの悪い自分にしては珍しい、とそれだけ瞬時に思って、ふと薄く瞼をあけると部屋の中は薄暗い。
紫紺の部屋、一時を指した時計の針、たった二つの視覚情報に、まだ寝れる、と判断した脳はするりと睡魔を引きよせた。




二度目の覚醒はひどく頭がぼんやりとした。睡眠の取り過ぎは体全体に倦怠感、頭に鈍い重さを連れてくる。
しばらく息を潜める。まず指が意志とは関係なく痙攣した。かすかに触れた布はシーツと布団の感触の違いを脳に伝えてきた。
ず、と指の腹がシーツを擦る。ざらりとした。洗いたてなの、という女の人の声を思い出す。
ぐり、とかたい枕にこめかみを押し付ける。これもざらりとする。洗いたて、と頭の中でつぶやく。
次第に体が起きてきた。感覚器官が情報を伝えてくる。
シーツの感触。布団からはみ出た肌が感じる外気。こぽこぽと、何かが静かに音を立てている。
すう、肺が動いた。つ、と鼻の奥に匂いが突き刺さってくる。嫌いな匂いだ。出来るだけ避けたかった。だけれど、体は慣れてしまった。
諦めて息をする。すう、はあ。こぽこぽ、と相変わらず何かが静かに音をたてている。
それ以外はなんにも音がしない。なんにも。ふと耳が、何かをとらえた。ぽたん。お水の落ちる音だ。
なんていったっけ?水じゃなくて。何がはいっているの、と聞いた時、男の人はなんていったっけ。ぽたん。
ず、ず、と体がシーツをする。痛いし、おもたい。こんな時、友だちがいたら。お父さんが連れてきてくれた、一番の友だち。
コーヒー飴みたいな体の色した、あったかくてふわふわな。転んで泣いた時、しんぱいそうな顔で私を見てたっけ。かなしい時には、ぐりぐり頭を押しつけてくれた。
いつだって名前をよんだら、わん、と返事してくれた。いつも、そばにいてくれた。

目をひらく。まっくろな壁。銀色に光る取っ手。ぽつんと置かれた緑色の椅子。
くらい部屋だった。ぐるりと見回してみる。
コーヒー飴みたいな体の色した、あったかくてふわふわな友だちはどこにもいない。
ず、と体がシーツをすった。じわりと目があつくなる。すう、はあ。口の周りの透明なものが邪魔をして、名前がうまく呼べない。
お父さんがつけた名前なのに。うまく呼べない。部屋がぐにゃぐにゃしだした。きゅう、と目をつぶる。まっくら。
…らん、ゅ…、らん…。
返事は聞こえない。やわらかくてくすぐったい毛もぬれた鼻も、まあるい目もちょっとたれた耳もない。
あるのはまっくらだけだ。そこにぽつんといるのは、自分だけだ。

――その時、指先に何か冷たいものが触れた。

ベッドの柵のような、無機質な温度に一瞬息が止まる。途端、ずく、と下腹部が痛みを訴えた。
疼くような、今まで経験したことのない痛み。止めたまま、つまりそうな息をなんとか吐き出す。
じわ、と汗が滲んだ。はっ、と浅い呼吸の合間にも、ずく、と鈍痛の波が訪れる。
なんとか堪えようと、指がいつのまにかシーツをすがっていた。自分の心臓のように、繰り返し繰り返し主張をし続ける痛み。
頭痛すら起きそうなほど食いしばった奥歯が、ぎり、と軋む。
堪え切れずこめかみを何かに押し付ける。ざらざらと荒い質感。瞼の中の目が、潰される、と訴えた。
ひしゃげた喉が、ぐるぐる呻る。ぷつっ、と小さな小さな音。ひらいた。何が。腕が湿る、何かが伝う。
指先まで伝うそれが、床に落ちる。ぱきん、と凍りついた音がした。部屋が、空気が、冷える。

そこで、見た、気がした。

歪にひび割れた暗闇を裂く輝き。
鋭い爪。銀色の体躯。
血のような、赤い光。

しっている。
なにを。

頭も。耳も。目も。顔も。口も。首も。足も。尾も。声も。温度も。質感も。
そして名前も。

お前の、名前は。


乾いた口で呼ぶ前に、世界は暗転した。








以下蛇足

世界の終わりはこんな風に音速の速さで訪れる、みたいな中二病のようなイメージ。
いつでもノミ汰は中二病ですから仕方ないですね。

そんな事はさておき、とても忠実ななつきのチャイルドは、
こんな風になつきの前に現われたりもしたのではないのかと思いました。

これがなつきの入院中に迎えた誕生日の話だなんて言えなry
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by nominingen | 2010-09-12 11:52 | 舞-HIMESS


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