前回の更新日付がエイプリルフールじゃない、と相方につっこまれて気づきました、ノミ汰です。ごきげんよう。 エイプリルフールだけど嘘じゃないですからね!上京してますからね! それはそうと珍しくss更新ですよー。 何故か黎人さん視点。 書いてて結構好きなんだなぁ、と今更ながら思いました。 静なつssの筈なのに本人達が出てないってどういうことなんだろう・・・ 彼女はよく「犬」と例えられる。 なるほど、確かにある特定の人物に対しての彼女の反応や行動は、主人や仲間などに対する好意の表現に似通う所があるようだ。 彼女は常日頃から警戒を怠らない。必要がなければ近づきもしないし、近寄らせまいと努める。 この状態からの脱却を図るのは非常に難しい。 単純に接近すればいい訳でもなく、かといって遠回し過ぎるのも意味をなさない。 一つこんな事例がある。 彼女に好意を持った人間が一人。 Aは非常に誠実で実直であり曲げられぬ人であり、要するに真面目馬鹿と言えた。 真面目というのは字面で見る分には好印象を受けるが、実際のその「真面目」ぶりを目の当たりにすると印象は確実に違ってくる。 ある時Aは彼女を呼び出し、思いの丈を情熱と持てる語彙の限りを尽くして伝えた。 それはよくある青春の一ページに過ぎない。 そして好意を素直に表され、悪い気を起こす年頃の少女はあまり居ないだろう。 ごく自然で、誰もがそれが当然であるという前提を、Aは勿論抱いていた。 一般的な「前提」が、時として浅慮な「思い込み」にすり替わるのは容易い。 愛の告白が公衆の面前であったなら、それは尚の事。 ――真面目が悪い訳では、決してない。 しかし、心の琴線に触れるのは常に「真面目」とは限らない。 ひたすらに押しの一手より、距離感を保つ引く一手は非常に有効だ。 微妙なラインを見極め続けるのも、困難だろうけれど。 そんな事を考えながら歩いていると、新しい執行部を取り仕切る後輩の姿を見つけた。 こちらに気づいた後輩は、初めて顔を合わせた時より幾分か気を許してくれた様子で、律儀に頭を下げる。 「お久しぶりです。何かご用事ですか?」 「ああ。ちょっと書類が必要でね」 短いやりとりだが、そう気まずさは無い。 大抵あの元気な執行部長を間に挟んでいたが、こうして二人きりでも違和感を感じないことに、内心少し驚きを覚える。 同じ職員室に用事があると、連れだって歩き出し、少女が抱えた書類を半分持って、考える。 呆気なくあっさりと、お願いしますと言ったこの少女が変わったのか。 それとも自分が変わったのか。 不思議そうに首を傾げる少女に、いいや、と首を振る。 答えは明白だ。何を今更と、おかしく思うほど。 お互いに職員室での用事を済ませ、どうせだからとかつて親しんだ生徒会室まで足を運ぶことにした。 久しぶりの生徒会は何処か特別変わった様子もなく、ほぼ記憶のままだった。 異なる所を探し始めればきりがないだろうし、またそんな間違い探しをする気もない。 「粗茶ですけど」 「ありがとう」 受け取った湯呑は来客用のもので、以前使っていたものとは違う。 そんな所に確かな時の流れを感じる。だが郷愁も懐古も、戻りたいとも思わない。 窓の外から、遠く喧騒が聞こえてくる。陸上かサッカーか野球か、運動部だろうか。 それとも下校していく生徒達なのかもしれない。 なんとなしに、かつて自分が副会長だった時のように、窓辺に立ってみる。 大抵は気晴らしや暇つぶしや気分転換だったが、思い起こせば、空を見ていた。いや正しくは、あの赤い星を。 「・・・あの?」 おずおずと声がして、少し、引っ張られ過ぎた、と自戒する。 それに付き合わせるのも気を遣わせるのも、と思った所で、視界に流れるような藍色の線が写った。 あ、と気づいたのはほぼ同時だったが、少し前から見ていたと言う風に首を傾いでみせる。 「どこを好きになったんだろうね」 「え?」 「静留さん」 投げかけた話題に、少女はええと、と考え込む。 人が人を好きになる。単純なようでいて、とても難しい。 性格や仕草や、顔や声、年齢やステータス、人間性、財産。 どれか一つだったり、ひっくるめて好きだという人もいれば、様々だ。 そして、想いの形も。 「・・・私は藤乃さんじゃないから、全部は分らないけど」 「けど?」 「なんて、いうか。好きになった切欠や理由は、みんな言えると思うんです。 でも、どこが、どう好きかって聞かれたら、こうだって言い切れる人は、必ずしもいないんじゃないかな、って」 どこがどう、好きなのか。 答えた時、じゃあそうじゃなかったらと、言われた時に。 それだけで、人は人を嫌いなれるほど、単純じゃない。 少女の言葉は、問いの答えにはなっていない。けれど、限りなく正解なのだろうと想う。 「あの・・・?」 訝しげな声に、気にしないで、と笑って返す。変わったようでいて、やはり自分は自分だ。良くも、悪くも。 簡単なような、難しいことが分らない。それを自覚して、気づけるようになっただけマシと言うべきか。 まだまだ未熟者だな、と内心苦笑して、さて、と窓から離れる。 「ごちそうさま。僕はそろそろ行くよ」 きょとん、と首を傾げた少女に、微笑んでから視線を向けた。 ――夕陽に負けず劣らず、一際輝く橙色。この頃背が伸びてきた、つんつんの黒髪頭。 そこまで少女、菊川雪乃が認識した時には、既に彼の姿はなく。 来客用の湯呑と、真新しい茶封筒だけが残されていて。 「これ、どうやって届けたらいいのかな・・・?」 つぶやいて、雪乃は困ったように笑い。 珍しいこともあるものだと、封筒に書かれた「神埼 黎人」の文字を見つめた―――。
by nominingen
| 2010-04-08 01:40
| 舞-HIMESS
|
ファン申請 |
||