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玖我なつきについて(二割)本気出して考えてみた

前回の更新日付がエイプリルフールじゃない、と相方につっこまれて気づきました、ノミ汰です。ごきげんよう。

エイプリルフールだけど嘘じゃないですからね!上京してますからね!

それはそうと珍しくss更新ですよー。
何故か黎人さん視点。
書いてて結構好きなんだなぁ、と今更ながら思いました。
静なつssの筈なのに本人達が出てないってどういうことなんだろう・・・











彼女はよく「犬」と例えられる。
なるほど、確かにある特定の人物に対しての彼女の反応や行動は、主人や仲間などに対する好意の表現に似通う所があるようだ。
彼女は常日頃から警戒を怠らない。必要がなければ近づきもしないし、近寄らせまいと努める。
この状態からの脱却を図るのは非常に難しい。
単純に接近すればいい訳でもなく、かといって遠回し過ぎるのも意味をなさない。

一つこんな事例がある。
彼女に好意を持った人間が一人。
Aは非常に誠実で実直であり曲げられぬ人であり、要するに真面目馬鹿と言えた。
真面目というのは字面で見る分には好印象を受けるが、実際のその「真面目」ぶりを目の当たりにすると印象は確実に違ってくる。
ある時Aは彼女を呼び出し、思いの丈を情熱と持てる語彙の限りを尽くして伝えた。
それはよくある青春の一ページに過ぎない。
そして好意を素直に表され、悪い気を起こす年頃の少女はあまり居ないだろう。
ごく自然で、誰もがそれが当然であるという前提を、Aは勿論抱いていた。
一般的な「前提」が、時として浅慮な「思い込み」にすり替わるのは容易い。
愛の告白が公衆の面前であったなら、それは尚の事。

――真面目が悪い訳では、決してない。
しかし、心の琴線に触れるのは常に「真面目」とは限らない。
ひたすらに押しの一手より、距離感を保つ引く一手は非常に有効だ。
微妙なラインを見極め続けるのも、困難だろうけれど。

そんな事を考えながら歩いていると、新しい執行部を取り仕切る後輩の姿を見つけた。
こちらに気づいた後輩は、初めて顔を合わせた時より幾分か気を許してくれた様子で、律儀に頭を下げる。

「お久しぶりです。何かご用事ですか?」
「ああ。ちょっと書類が必要でね」

短いやりとりだが、そう気まずさは無い。
大抵あの元気な執行部長を間に挟んでいたが、こうして二人きりでも違和感を感じないことに、内心少し驚きを覚える。
同じ職員室に用事があると、連れだって歩き出し、少女が抱えた書類を半分持って、考える。
呆気なくあっさりと、お願いしますと言ったこの少女が変わったのか。
それとも自分が変わったのか。
不思議そうに首を傾げる少女に、いいや、と首を振る。
答えは明白だ。何を今更と、おかしく思うほど。

お互いに職員室での用事を済ませ、どうせだからとかつて親しんだ生徒会室まで足を運ぶことにした。
久しぶりの生徒会は何処か特別変わった様子もなく、ほぼ記憶のままだった。
異なる所を探し始めればきりがないだろうし、またそんな間違い探しをする気もない。

「粗茶ですけど」
「ありがとう」

受け取った湯呑は来客用のもので、以前使っていたものとは違う。
そんな所に確かな時の流れを感じる。だが郷愁も懐古も、戻りたいとも思わない。
窓の外から、遠く喧騒が聞こえてくる。陸上かサッカーか野球か、運動部だろうか。
それとも下校していく生徒達なのかもしれない。
なんとなしに、かつて自分が副会長だった時のように、窓辺に立ってみる。
大抵は気晴らしや暇つぶしや気分転換だったが、思い起こせば、空を見ていた。いや正しくは、あの赤い星を。

「・・・あの?」

おずおずと声がして、少し、引っ張られ過ぎた、と自戒する。
それに付き合わせるのも気を遣わせるのも、と思った所で、視界に流れるような藍色の線が写った。
あ、と気づいたのはほぼ同時だったが、少し前から見ていたと言う風に首を傾いでみせる。

「どこを好きになったんだろうね」
「え?」
「静留さん」

投げかけた話題に、少女はええと、と考え込む。
人が人を好きになる。単純なようでいて、とても難しい。
性格や仕草や、顔や声、年齢やステータス、人間性、財産。
どれか一つだったり、ひっくるめて好きだという人もいれば、様々だ。
そして、想いの形も。

「・・・私は藤乃さんじゃないから、全部は分らないけど」
「けど?」
「なんて、いうか。好きになった切欠や理由は、みんな言えると思うんです。
 でも、どこが、どう好きかって聞かれたら、こうだって言い切れる人は、必ずしもいないんじゃないかな、って」

どこがどう、好きなのか。
答えた時、じゃあそうじゃなかったらと、言われた時に。
それだけで、人は人を嫌いなれるほど、単純じゃない。
少女の言葉は、問いの答えにはなっていない。けれど、限りなく正解なのだろうと想う。

「あの・・・?」

訝しげな声に、気にしないで、と笑って返す。変わったようでいて、やはり自分は自分だ。良くも、悪くも。
簡単なような、難しいことが分らない。それを自覚して、気づけるようになっただけマシと言うべきか。
まだまだ未熟者だな、と内心苦笑して、さて、と窓から離れる。

「ごちそうさま。僕はそろそろ行くよ」

きょとん、と首を傾げた少女に、微笑んでから視線を向けた。

――夕陽に負けず劣らず、一際輝く橙色。この頃背が伸びてきた、つんつんの黒髪頭。
そこまで少女、菊川雪乃が認識した時には、既に彼の姿はなく。
来客用の湯呑と、真新しい茶封筒だけが残されていて。

「これ、どうやって届けたらいいのかな・・・?」

つぶやいて、雪乃は困ったように笑い。
珍しいこともあるものだと、封筒に書かれた「神埼 黎人」の文字を見つめた―――。
by nominingen | 2010-04-08 01:40 | 舞-HIMESS


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